両手をスタートラインラインギリギリのところに そっと置く。 揃えた指先が若干震えているけど それが逆に気持ちを奮い立たせる。 「set―――――。」 お尻をぎゅっと持ち上げ、 静止する。 歓声が止み、場内は静まり返った。 ―――パンっ! ピストルの音に身体が敏感に反応するのは もう癖のようだった。 持ち上げた身体は 軽い。 そうだ、これだ。 この感覚なんだ。 もう何も聞こえない。 耳が受け取るのは風の音だけ――――。 ゴールはもう、目の前にある――――。 ~風になれ~ end.