「先生に勧められたんだよね。私、あんまり軸がぶれてないってさ。」
俺の気持ちをうまく悟ったように涼々が呟いた。
まあ言えてるな。
涼々の走りに余計な動きは一切ない。
キレイで、逞しくて、美しい。
その言葉がぴったりなフォームをする。
でもこいつの身長でハードルはきつくねぇか?
ハードルは身長が高いやつほど有利になる。
涼々は小さめだ。
大丈夫なのか―――――――。
跳び始めた涼々を見て、大丈夫だと思った。
体幹は絶対にぶれない。
頭の位置もなかなかいい。
足の運びが若干広がっていると東は指摘したが、
初心者には十分な跳びっぷりだ。
ただの陸上バカなこいつ、実は才能秘めてんだろ…。
負けられない気がして、身体がうずうずしてきた。
「俺も1000走ってくる。」
簡易トラックの200mスタート地点に向かった。
時計のスイッチを押すと同時に地面を蹴りあげ前に進む。
1歩1歩、土を踏みしめる感覚がなんとも言えないくらいに好きだ。
今日は調子がいい。
東は100のスタート練習と幅跳びの練習を黙々としていた。
涼々は考えながら何度もハードルに立ち向かっていった。
俺は、2本だけじゃ足りない気がして
結局4本も1000mを走った。
身体がだるさを覚えたけど、苦ではなかった。
この感覚だ、、って思った。
このなんとも言えない疲れ具合。
やりきった感で溢れかえる胸をギュッと握りしめた。
俺もバカだな。
極度の陸上バカらしい。
校庭のど真ん中で寝そべった俺。
空にはうっすらと俺達を見守る星が見えていた………。


