「そーか。いい彼女を持ったな。


彼女は強い目をしているなぁ。

予選も準決勝もそうだった。
誰よりもゴールを強く睨んでいた。



本当に、陸上を愛しているやつがしておる目をしていた。



だから、最後まで見つめてやるんだ。

まだまだ若いだろ?
これからまたたくさんの理不尽な事を経験するはずだ。
その度に逃げ出したくなったりするだろうよ。



でも、その度に、あの目を思い出しな?


辛くても必死に乗り越えようとする強い意志を持てば、必ず報われるんだ。



それは、彼女さんとお兄ちゃんが一番わかってるんだろ?」





なんか、心にジンっとくる言葉だった。





「はい。俺、高校を卒業して陸上を離れたんですけど、まだまだこうして見ているだけでいい。


あいつをもっと、

見ていたいと思いました。



おじいさん、ありがとうございます。」




座って深々と頭を下げる。






「いいんだよ、そんな。


俺も昔な、お前さんたちと同じような事をしたんだ。
だから、後悔しない生き方をしっかり覚えていて欲しくてな。」




このおじいちゃんに俺たちはすべてを見抜かれていた。




恐るべしだな………。





「ほれ、始まるぞ。お兄ちゃん。前へ行きな。」







笑顔で言って、俺の背中を押し出してくれた。


俺は立ち上がって階段を下り、メインスタンドの一番下までやってきた。





涼々………。