風になれ




場内はたくさんの人で埋め尽くされていた。




その中で見つけた席に腰をおろす。

今は男子800mの準決勝を行っていて、応援もあちこちから飛んでいた。



ふと、先ほどズボンの右ポケットに入れた携帯が振動していることに気がつく。



慌てて取り出し、名前を確認する。






つばめ―――――。





東北で漁業を手伝っているというつばめ。
今、何の用があるってのか。。


考えているうちに、振動が止まりそうな気がして


慌てて出た。



「ごめん!はい俺っ!」


つい、テンション高く出てしまった。


「っんだよ、いきなりかけてくるなんて何かあったかー?」


『あ、いや、ちょっと、話したいことがあったんだけど……それよりお前、今どこにいんだ?』



競技場!と言おうとして、少し戸惑って


「今は………、言えねーな。」


なんて勿体ぶった言い方をしてしまった。


「それより話したいことって?」


『涼々が秀徳経済大学で、注目選手だって。テレビ、見れねーか?』




そういうことか。

たぶん今、テレビ中継で涼々の名前を聞いて焦って電話をかけてきたんだろう。

それなら。





「知ってるよ。」



俺の言葉は爆弾発言だったのか?

だまってしまったつばめに対して俺は話を続けた。



「俺さぁ、今、競技場にいんだけど。」


『え、まじかよ………。』


「昨日涼々から〇〇競技場 午後2時ってだけ書かれたメール送られてきてさ、
競技場に来たのはいいけど、気になって最初に掲示板見に行ったら涼々が準決勝1位だって見て。そんで今、メインスタンドに座ってる」



今度はだまってつばめの返事を待とうと思っていたら



『いつから知ってたんだ?』


なんて聞いてくるから

「は?」って返してしまったじゃねーかよ。


『いつから涼々の居場所、知ってたんだ?』




そういうことかよ。