風になれ




「えー、まずは新記録、おめでとうございます」


「ありがとうございます」




涼々がアナウンサーに向かってニコッと微笑んだ。




「今回の走りをご自分で振り返ってみてどうでしょうか。」



「えー、そうですね。自分の思い描く走りがしっかり出来たと思います。」



「全国大会は………「では、準備して出てきてくださーい。」」



まじ役員、タイミングわりーぜ。




せっかく涼々のアナウンスを見れると思ったのに…。





「残念だったな。」


隣で俺のことを観察していた、高校からのライバルの野田が俺の肩を叩いて、着替え始めた。



「うっせーよ、会えたんだから充分。」


「え?あいつ好きなの?彼女いんのに?」


「んなわけねーだろ。大事な、後輩のひとりだよ。」



俺も服を脱ぎすて、ユニフォームになる。





「いいよな、こういう風に涙流してる後輩見ると俺らも頑張れるよな。」



は。なんて?

涙を流して?

誰が?



俺の動きが止まったのに気づいたのか、野田が口を開く。




「後輩ちゃん、嬉しすぎて泣いてんぞ?」



笑う野田の目線の先のスクリーンで………





涼々は涙を流していた。






「まけらんねーな、これは。」


「ごめん、勝の俺。」





野田が挑発してきた。

まぁ、勝ったり負けたりの俺ら。





「今日だけは負けられねーな。」


「それこっちのセリフ。」





「準備出てきた順に出てきてレーンに入ってくださーい。」



役員の声で、俺たちはふたり揃って靴紐を結び直した。