「第5レーン、秀徳経済大学2年、新田涼々さん。」
場内アナウンスが流れ、涼々は目の前の中継用のカメラに向かって手を振った。
――――翼、お前見てるか??
今涼々は、トラックの真ん中でギラギラしてるぞ。
翼はせっかく陸上名門校からきた推薦をすべて断って大学に進学した。
やりたいことがあるからなんて言ってたけど、陸上を離れてまでやりたいことなんて俺には思いつかない。
まあ、人それぞれだろうけど。
それでもまだ、陸上を見に来たりしているということは、まだまだ陸上が好きって証だ。
俺はそれだけで十分なんだ。
今、隣には7人のライバルがそれぞれの世界に入り、これから行われる決勝に向けて準備をしていた。
だけど、俺はそれどころじゃなかった。
涼々の走りがみたくてみたくて仕方がなかった。
テレビの実況は場内には流れないから、しっかりと走りを見るしかない。
スタンド下の待機場所から背中だける涼々を見失わないようにとガン見していた。
「on your mark……」
カンカンっと歯切れのいいスパイクをスタブロに当てる音が聞こえる。
一連の動作を終え、静止してから
涼々は一度ゴールを見つめた。
俺はその動作を知っている。
本当に涼々が本気の時にだけする。
本気で勝ちたい時にだけする動作。
予選や準決勝ではどうだったか、時間てきに見れなかったけど、決勝は男子1組女子1組だから、このトラック沿いの待機場所からはよく見えた。
そして、すべての動きが止まった瞬間
「set………」
レーンに並ぶ8人がいっせいに腰を上げる。
この揃った動きはいつ見ても美しい。
スターターが雷管を掲げる………
パンッ!!!!!!!!
場内に雷管の音が響き渡るとともに8人は一斉に走り出した。
もちろん、前半から涼々は抜けていた。


