風になれ




涼々は宣言通りに1位で予選、準決勝を突破。



俺も涼々みたいに大差があったわけではなかったけど、1位で通過した。





そして今日、決勝を迎える。






ん………?



競技場の外周を走っていた時、気になる人影が見えた。

最後に会った時よりも背が高くなっていて、
髪は黒から暗いけど茶髪に変えたらしかった。




そう、それは






「翼か?」


「あ!樹先輩!!」



俺の声に振り返ったのは紛れもない、翼だった。




「来てたのか。」

「涼々から変なメール送られてきたんでね。」


かばんの中から取り出した携帯には



▶▶▶


〇〇競技場

午後2時


▶▶▶


とだけ書いてあった。



午後2時って、競技が始まる時刻だ。


でも、



「あいつが走るの、4時くらいだぞ?」




そう言うと



「やっぱり、会いましたか……。」


こぼれ落ちたように翼が呟いた。




「どーゆーことだ?」


「いえ、何でもないです。」


翼の意味深な独り言に頭を捻らせた。




「あいつ、卒業してから居場所がわかんなかったんだってな。」


「はい、俺には教えてくれたんですけど………、

卒業してから一度も会ってないし、連絡も取れてないんです。」





そんなに、何にこだわるのかが分からなかった。

どうして、誰にも居場所を伝えないのか。



ましてや、彼氏に会うこともなく。





「何が……、したかったんだろうな………。」


「きっと、誰にも見られたくなかったんだと思います。」


「なんで?」


「涼々はそういう人です。
きっと何か、考えがあったんじゃないですか?
それならそれで、俺はいいです。」


なんだよ、男としてたくましく成長しやがって………。



イラついた。

だけど、



「涼々を守れるくらいの大人になったな。」



そう言って翼の頭にポンと手を置く。


「やめてくださいよー、俺まだ19ですよ?」


「んなのかんけーねーわ。」


「ふっ………。 でも、居なくならないようにしっかりバリア貼っとかなくちゃだめですね?」




俺の手をどけながら言った。




「そーだな。逃がされんなよ?」


「もちろんですよ。」



何年ぶりかに2人であってははっと笑った。

それは、俺達の高校時代を鮮明に思い出させてくれたような。



そんな瞬間がした。






「頑張ってくださいねー!」



再び走りだした俺に翼がそう叫ぶから、

黙って左手をあげた。