《side 樹》
『1組6レーン
新田涼々 秀徳経済大学2年』
俺は目を疑った。
でも、確かにそこには新田涼々の文字があった。
秀徳経済大学は俺たち東邦大学のライバル校として常にトップを争っている学校。
合同練習も1、2回したことがあるから顔見知りのやつも大勢いる。
でも、知らなかった、そこに涼々がいるなんて。
俺の知っている涼々は走れなくなり、悔し涙を流していた。
それがまさか、今同じ全国という舞台に立っている。
唖然とした。
高2の冬で怪我をし、3年の時はほとんど走っていない。
どこでそんな登録タイム11秒89なんて出してきたんだよ。
プログラムをがん見した。
間違いじゃねぇ、この記録は、確かに涼々のものだ。
もともと才能がある涼々だ。
きっと秀徳経済大の顧問にでもその才能を見つけられたのだろう。
「何さっきから同じとこばっか見てんの?」
顔を上げると、有姫が俺のことを見ていた。
高校で一目惚れしたけど、告白することなく卒業を迎えた。
もう二度と会うことはないと思っていた矢先、有姫は東邦大にやってきた。
『あの……。好きなんです!』
そう言ってきた時の有姫のはにかんだ笑顔を忘れることはないと思う。
一目惚れしたこいつと、今は晴れて両想いになり、今月で半年を迎える。
「これ、明らかに涼々の名前だよな?」
開いていたページをそのまま有姫に見せると
顔色がみるみるうちにかわった。
「す、涼々だ。涼々だ!!」
キャッキャ飛び跳ねる有姫。
お前、それでも今年はたちなんだから………。
まあそんなに喜んでもそうだろうな、なんて思ってしまう。
なにせ、涼々は居場所を告げずにみんなのもとを去っていったから…。
どこで何してるんだろうね、
それが有姫の口癖だった。
いつだって涼々の走りに感動し、涼々を傍で見てきたこいつらにしかわからねー事もあんだろうな。


