風になれ




『では、トラックの準備ができたようです。』



4時を5分ほど過ぎた頃、テレビ中継は女子100mに変わった。






『第2レーンから紹介していきましょう。………』


レーン順に選手紹介が行われた。





涼々は……、


5レーンだ。





ペンを置き、テレビに向き直った。

涼々は望んでいるはず。

俺たちが、お前の姿を見てやることを。





『on your mark』


カンカンとスタブロに足をつける。




涼々が正面から映し出された。


ゴールだけを見る、鷹のような鋭く、厳しい目。


首元にある、マグネループがきらんと揺れた。





『set………』



8人がほぼ同じタイミングで腰をグッと持ち上げる。





『パンっ!!!』




テレビ画面の向こうで雷管がなった瞬間から、




涼々はとびだして先頭についた。





『いいぞいいぞ!新田が抜ける!新田が抜ける!』



隣には誰も並んでいなかった。


単独走。




昔と変わらない、ブレない、軸のしっかりした走りをしていた。




ゴールした瞬間、わーーーーっと歓声があがる。





『新記録!速報では新記録!速報、11秒29。学生記録をわずかに上回る記録になったか??』




アナウンサーは大げさに涼々の記録を叫ぶ。


テレビ画面は、涼々の姿や電光掲示板や様々なものを忙しなく映し出す。


涼々は笑顔で両手を上げていた。




こんなにキラキラした涼々、


いつぶりに見ただろうか………。