風になれ




プルルルルプルルルルプルルルル……



授業中だろうか。

まだ2時だ。



授業は終わってなかったかもしれない。



耳から携帯を離し、切ろうと思っていたその時………




『ごめん!はい俺っ!』


歯切れのいい言葉が飛んできた。




『っんだよ、いきなりかけてくるなんて何かあったかー?』



「あ、いやっ、ちょっと、話したいことがあったんだけど……それよりお前、今どこにいんだ?」


携帯の向こうから、翼の声に混じってたくさんの声が聞こえていた。



『今は………、言えねーな。それより話したいことって?』



言葉を濁した翼だったけど、俺は早く涼々のことを知らせたくて話を切り替えた。




「涼々が、秀徳経済大で、注目選手だって。テレビ、見れねーか?」






『知ってるよ。』








翼の答えには?っと間抜けた返事をしてしまった。





そんな俺に翼は『俺さぁ、』と続ける。



『俺さぁ、今、競技場にいんだけど。』


「え、まじかよ………。」


『昨日涼々から〇〇競技場 午後2時ってだけ書かれたメール送られてきてさ、
競技場に来たのはいいけど、気になって最初に掲示板見に行ったら涼々が準決勝1位だって見て。そんで今、メインスタンドに座ってる』




だからやけに騒がしく聞こえるのか……。




それより、翼は涼々の居場所を………



「いつから知ってたんだ?」


『は?』


「いつから涼々の居場所、知ってたんだ?」





秀徳経済大学。


それは国内でも有数の国立の進学校。




そして、陸上の大本命と言われる強豪校。





駅伝だって速い。


三代駅伝制覇はよく見る話だ。





そんな大学に進学したこと、翼はいつから……。




『卒業式の日から、知ってた。』


「そんなに前から……。」


『だって俺、彼氏だぞ?』



俺の反応にケラケラ笑う翼の声が耳に入った。





「そーだな………。」



『お前、勉強がんばれよ?』



「おう……。」





翼は俺が独学でスポーツを勉強しているということを知る、唯一の人物だ。





「お前も………、ちゃんと涼々の勇姿を見とけよ?」


『当たり前だろ。』





俺の方から電話は切った。





やっぱ知ってたんだなーー。


俺は涼々が走るという4時までまた勉強を始めた。