風になれ




『始まりました!全日本大学選抜。司会の……』


午後2時。


テレビは大学選抜の生中継に変わった。



俺は参考書に目をやりながら話を聞いていた。




でもそれは、いきなりだった。




いきなり過ぎて本当に、息が止まるのではないかってほどの勢いだった。





じーちゃんもばーちゃんも今日は小屋で何かするって言ってた。

だから家には今は俺ひとり。

喉が乾いてお茶でも取りに行こうと、立ち上がった時だった。





『本日の注目選手はやはり、東邦大3年の出雲樹くんでしょうねー。』



は!?出雲樹!?



テレビに向き直ると画面下に


『東邦大学 3年 出雲樹 (青葉高校出身)』


の文字が。

やっぱ、樹先輩はどこに行ってもつえー。





その文字にフッと湧いてきた笑みを抑えないまま身体を向き直した。







『でもやはり、一番の注目どころは女子100mの……』





――――女子100m。

その言葉だけで反応してしまう。

あいつが出てくるんじゃ………





『秀徳経済大学2年の新田涼々でしょうねー。』





目が見開いていくのがわかった。



涼々だと……!?



しかも、注目選手だなんて………。






俺のすべての機能は停止し、


テレビ画面に見入った。







『中学生の時は全中棄権、高校生の時は怪我で県大会を断念するなど、なかなか来れなかったものですからねぇ。』



『どんな走りをするのか、見どころですね。』



『そうですね、予選、準決勝ともに11秒76、11秒41と自己ベストを更新し、1位通過をしてきました。中高大を通して初の全国大会を決めた新田涼々に注目していきましょう。
では、本日のタイムテーブルです。』





中学生時代以降、一度も11秒台を出せていなかったという涼々。


今、そんな涼々は全国でキラキラと輝いていた。






―――――翼に連絡しなきゃ…!


誰も知らなかった涼々の居場所。

もし俺が最初に知ってしまったら、一番に翼に伝えようと決めていた。


携帯を取り、久々に見る翼の番号にかけた。