神宮寺鳩子は、4年前には夢と希望と自信を持って旅立った空港に、今は挫折感と無力感に苛まれて降り立った。

「お嬢様・・・」
「源三!」
声を掛けられたので鳩子が振り返ると、そこには古くから神宮寺家に仕え、幼い頃から世話をして貰った源三が立っていた。

鳩子が源三と最後に逢ったのは、一時帰国した2年前の夏休みだった。
やや小太りだった源三も今ではやせ細り、その姿は枯れ木を思わせた。
日焼けした肌は相変わらずだが、その顔には濃いシワが刻み込まれ、頭髪には白いものが以前より多くなっている。

(随分と気苦労をかけてしまったみたいね)
未だに忠誠心の篤い源三に、こんなに老け込むほど苦労を掛けてしまった事を鳩子は申し訳なく思った。

「お迎えにあがりました」
「源三。もう私の世話なんてしなくていいのよ」
鳩子は自嘲して言った。
「いえ。何があっても私は、お嬢様を見守ります」
源三は真剣な顔で鳩子に宣言した。
「・・・そう。ありがとう」

鳩子が小さく笑うと源三は鳩子の荷物を持って歩き出した。
といっても、もう荷物はスーツケース一つと大きめの鞄だけ。
源三は4年前に鳩子を見送った時の事を思い出すと、目頭が熱くなった。