次の日の朝。学校は賑やかだった。

学園祭2日目。


今日は1日休みだ。
なぜなら、宣伝係だから。


ただ、看板かプリント持って、回ればいいだけだから、特にすることもない。

休みと同じだ。

もちろん、朱里も休み。
上村と朝からイチャイチャしてた。

ウザ、とは思ったけど、また上村に、『あ、ひがみ〜?』とか言われてもイライラが増すだけだからやめといた

それにしても、みんな気合い入ってるんだね
隣のクラスなんか、お化け屋敷+カフェっていうよくわからない組み合わせだし
変な方向に気合が入ってて、先生達も大忙し


まぁ、今の私には関係の無いことだ

んー、やっぱ、人混みは苦手だなぁ
どこか、人がいないとことかないかな...


あ、被服室って確か、何かの準備で使ってたから、誰もいないんだよね...
行ってみよっかな



私たちのクラスは西棟にあるから、被服室まで行くのに、渡り廊下を渡る必要がある。
そこまで行くのに、一苦労だ




―――やっとのことで被服室についた。



運良く、鍵は開いていてすぐ入ることが出来た。

まだ、午前中だけど、もう疲れた
ていうか、なんでまだ午前中??
もう、昼過ぎぐらいだと思ってた

私たちのクラスは思ったよりも繁盛して、みんな、本当にバイトしてるみたいに見えた

まぁ、多分、ほとんどのお客さんが、接客である、如月や上村目的なんだろうと思う
そのたびに、沢田さんは止めに来てたけど


イケメンもいいことばっかじゃないんだね〜

ドンマイ、としか言いようがないけど


窓から外を見ると、外でも屋台が繁盛していた。

とくに、チョコバナナは人気のようだ


窓から見てると、意外と見えることがあった。
例えば

隣のクラスの女の子とうちのクラスの男子が付き合ってたとか

今まで興味がなかったことも目に入る。


...あれ?

なんであそこに、いるんだろう


お兄ちゃん...




私はすぐさまダッシュで走ってお兄ちゃんがいた校庭に出た。

まだ、お兄ちゃんはそこに居たから、後ろから引っ捕えるように捕まえてから、人のいない方へつれて行った。


「何してんのお兄ちゃん!!」


「うぇ...首元引っ張んなよな...死ぬかと思った..」


「そんなことより!!何でここにいるのかを早く答えてよ!」

「んぁ?あぁ、ちょっとな。イイじゃねぇか、母校だし?ちょっと、先生にあいさつ行ってくるわ」


「ちょ、変なことしないでよ!?」



そこだけがほんとに心配だ。
兄がアホなことをして、何度私が恥ずかしい思いをしたことか...

特に、私のクラスにだけ入って欲しくない。
頼むから、先生、兄を私のクラスへ紹介しないでよ...??





ーーーーーーそう思ってたのに



「よっ、来たぞ?お前のクラスメイト面白いな」


「...なんで来るの...」


私は、クラスの女子に問いただされた


『あのイケメン誰!?』と。



兄だよ。そう答えたいのはやまやまだが
私はこの、女子をナンパしてやがる男を兄とは認めたくないと思った。
だから、


「知らない人。」


「嘘つかないでよ、彼氏なの?」


「絶対ありえない」


「うっそだぁ〜だって、如月くんにも負けず劣らずの顔だよ?」


「それは、本当にありえないと思う切実に」


「どんだけあの人のこと嫌いなわけ...」



んー、どれくらいだろう。
今日は特に嫌いかな。
だってこんな所まで普通くる??
なんで来ちゃうの?


はぁ...ため息が今日はよく出る。
いや、兄が来てからか


最悪だぁ。


帰りたい、今すぐに



私の女子クラスメイトがお兄ちゃんに群がっている。

あぁ、お母さん。あれほど言ったのに、文化祭には来させないでねって。
裏切ったの?
なんで?


そんな疑問がポンポンっと浮かぶ。

あぁ、めんどくさい...。


「......私、仕事に戻りまーす」


「えぇ!?私たちの質問は!?」


「...そいつに聞いて」


「ひどいなぁ、兄にそんなこと言うなんて」


「...えぇ!?お兄さん?」



もっとめんどくさくなりそうだと思ったから、後ろですごく騒いでいるけど、それを無視して私はまた歩き出した。




被服室...へは行くのをやめて、そろそろお昼の時間だから、私も外の屋台へ向かった。




あぁ、みんな大人数で回ってんだ。
1人って少しだけ恥ずかしいかも......

まぁ、いいか



私が、焼きそばの屋台に並んでいると、後ろから聞きなれた声が聞こえた。


「凛月!!」


「あ、朱里、と上村。何してんの?」


「えへへ、チョコバナナ買いに来たんだけど、人気で並んでたから買えなかった〜」


「冬坂さんは、何してんの?お昼?」


「あぁ、うん、まぁ」


「じゃあ、一緒に食べようよ!」


「えっそれは遠慮しとく」


「なんでー??一緒に食べようよ!私も焼きそば食べたいし!」



いや、これ昨日も言ったじゃん。

悪いからだよ

とは、言わず



「なんとなく」


「いいじゃん!4人で食べよ!」


「そうだよ、冬坂さん!」


「いやだから、二人に悪い......は?4人?」


「俺のこと忘れてたでしょ、冬坂さん。」




...げっ出た。


「き、如月...」


「うん!さっき“偶然”そこであってね!」



嘘つけ。絶ッ対にわざとでしょ

だって、如月、こんな忙しい時間に仕事から抜けれるわけないし、なにより、沢田さんが許さないだろう



「僕は今日、午後から暇で、せっかくだから、どこか回ろうと思ってたら、秋音と会って。」


「...そう。じゃあ、三人で食べてこれば?私は宣伝係だし、仕事あるし」


「嘘はダメだよ冬坂さん。さっきからずーっとサボってんじゃ...ごめんなさい。睨まないでください」


「睨んでないけど」



人聞きの悪いことを言うな上村。

それにしても、どうしようか
4人で一緒に食べるというプランAか、
1人で食べるというプリンB

プランCは、...ご飯を食べずに仕事をする、か


Cは限りなく嫌だし、4人でって言うのもいやだから



「私は一人で食べるから、大丈夫、気を使わなくても」


「え?気?使ってないよ?」


「だよな、友達に気を使うとか、あんまないし」



友達...か。

久しぶりに言われたかも。
いつもは、あんまりこういうふうに思わないようにしてるけど

上村いいやつじゃん



「はやく、焼そば食べよう!」


「...だから、あの...」


「いいからいいから!あ、えっと、焼きそば四つ!」


「はいよー!」



朱里が勝手に注文を済まし、私は引きずられるような形で、中庭まで連れてこられた。


いつも通り、誰もいない中庭は、遠くで軽音部の演奏が聞こえるだけだった。


「...」


「うわぁ、美味しそうだね!秋音!」


「だな!冬樹!お前も早く食えよ!」


「あぁ、食べるけど...冬坂さん、早く座らないの?」


「...はぁ......座る。」



結局、私の隣には如月が座っていた。


こんなとこ、沢田さんに見られたら終わるわ...なんて考えながら



「あ、そういえば凛月!今日ね、劇見に行ったんだけど、そこで、樹月さんに会ったよ?」


「あぁ、あのイケメン、冬坂さんのお兄さんなんだ」


「うぇ!?会ったの!?」


「うん!相変わらずイケメンだったよー」


「ちょ、朱里。彼氏の前でそういう事言うわけ?」


「あ、ちが、その...」



いやいや、イチャイチャする前に、会ったなら言ってよ...

他にも誰かに声かけてないといいんだけど...


ポツ......



ん?



「うわぁ!雨だ!」


「急いで、中に入ろう!」









ーーーー急いで校舎に入るけど、私の髪や肩は濡れてしまった。


ザーザー...と激しく降る雨。


「うわぁ、急だね...」


「冬坂さん、大丈......あっ...」


如月が私の方を見て赤面する。

何してんだコイツは、という目で見ていると、朱里まで赤面して、耳元でこう囁いた。


“透けてるよ”

と。



「はっ...!?う、うわぁ!」


「いや、見てないから!」


「嘘つけ!見たじゃん!変態!」


「いや、その...!!」



私たちは周りの人たちの視線を受けながら大声で言い合っていた。

最悪...こんな姿を見られるなんて...



「冬樹〜お前もムッツリだなぁ」


「秋音は黙ってろ!」


「お前、意外と純情なんだな〜」


「うっせぇって言ってんだろ!」


「凛月、大丈夫??」



あぁ、教室戻ってカーディガン着たい...

恥ずかしい...



「あ、あの、俺のじゃ嫌かもしれないけど、これ、着といて!!」


「は?いや、それは悪いから...」


「いや、着てもらわないと俺が困るから」


そう言ってズイっと差し出したグレーのカーディガン。


いや、困るのは私なんだけど
なんであんたが困ってんだよ...


「いや、マジで、大丈夫デス...」


「だから、その、ああー!なんていうか、...」


何故か急に悶え始めた如月。

え?え?何。
なんで?私のせい?え?
断っただけなんだけど


そんな困惑の表情を浮かべる私に、朱里がそっとこう言った


「ふふ......凛月、着といたら?移動する時もそれじゃ、ちょっとね?」



あぁ、その事を心配してくれてたのか


「...わかった。じゃあありがたく着させていただきます」


「...はい。それでお願いします...」


「ハハハ、いやー、面白いものが見れた見れた。ムッツリ君だなぁ冬樹!」


「お前はマジで黙れ。」



そんなふうにふざけ始めた如月と上村の後ろをついていく。


はぁ、一体どこへ行くのやら



「ねぇ!秋音!どこ行くの?」


「え?あぁ、俺のとっておきのサボり場所」


語尾に星でも付きそうな勢いでウィンクする上村を冷たい目で見た後、朱里を見ると



「...///」


「......は.........?」



嘘でしょ朱里。まさか照れてるの?
あのウィンクで?


い、イケメン恐るべし
あんなに軽々しくウィンクをする男子を見て引くどころか赤面させるなんて......



「秋音キッモ」


「は!?ちょ、え?なんで?そこはかっこいいって言うところだろ!」


「ムリ。キメェ」




あ、私の気持ちを代弁してくれた。


「朱里は乙女だね」


「え?なんで?」


「いや、なんとなく。」



私がそう言うとキョトンとして、でも次の瞬間には笑顔になっていた。

コロコロ表情が変わるなぁ


だからモテるのか。


「凛月?どうしたの?ボーッとして」


「いや、無情な現実に向き合ってただけ。それよりまだなの?」


「現実って...まぁいいや、この階段登ったらすぐだよ冬坂さん」


「ふーん、ん?って、まさか」


「ハハハ、お察しの通り、第二多目的室でした〜」



誰も察してないし。
何言ってんだ。


「わぁ!ここなら、誰も来ないね!」


「だろ?俺の取っておきの秘密隠れ家!」


「サボる時に使うとこだろ?かっこよくも何ともないわ」


「そんな事言うなよムッツリ」


「お前...ぶん殴る..」


「おいおい!いや、ジョーク!ジョークだから!...いで!!」


「ダサ...」


「だ、大丈夫?秋音」


「た、助けてくれ朱里〜!!ムッツリが殴りかかってくる!」


「あんたの自業自得でしょ。朱里、たすけなくていいよ」



なんてふざけていたら、1時間ほど立っていた。