「お母さーん、今日の夕飯何ー?」


「それよりそれより!!あんたに用事があるって、男の子が来てるわよ!!彼氏なの?彼氏なの?」


「えっ...誰だろ...って、彼氏なんていませんけど」


「あ〜ら?本当かしらねぇ〜?うふふ」


「お母さん...もういい年なんだから、恋バナにテンション上げるのやめてよね」


「いいじゃない♪いくつになっても楽しいものよ〜」



はぁ...私もお母さんに似たらこうなってたのかな...

顔はお母さん似ってよく言われるけど、性格は絶ッ対お父さん似だ。

お兄ちゃんはお母さん似。
本当に似ていて、私に彼氏ができようもんなら、質問攻めにされるだろう

まぁ、彼氏なんて早々出来るもんでもないけどね


「ちょっと、早く出てきなさいよ♪待ってるんじゃないの?」


「う、うん」



まさかとは...思うけど...

あいつじゃないよね...




玄関の扉を開ける時、あいつじゃないように...と念じながら扉を開けた。




「あ、冬坂さん」


「...何しに来たの.........如月」


私がそう聞くと、一回首を傾け、


「冬坂さんに会いたくて」


と爆弾を投下した。


...何サラッと言ってんの?
あぁ、あれか、
『僕、モテてるんでこんなことへでもないですよ』

みたいな?


調子乗ってやがる...


「あのさぁ、今まではそのセリフで数々の女という女を落としてきたと思うけど、私はそんな簡単に落ちないから。むしろ今、さっきのセリフ聞いて若干引いてるから」


「セリフ...??何それ」


「は?だから、さっきあんたがサラッと言ったセリフ!」


「...?」



...マジか


こいつ、まさか、無自覚であんな事言ったの?
それとも、それも演技?

あぁ、どっちかわかんなくなってきた


「...まぁ、とりあえず、ここに来た理由は分かったって事にしとく。でも、なんで私の家知ってるの?」


「あーそれは...えっと...秋音の彼女に聞いた」


「秋音...の彼女って、ことは......」




朱理じゃん。

え、なに。朱理は私の個人情報漏えいしたの?

しかも、一番私が知られたくないやつに?


「...へぇ。そう。」


「うん、聞いたらすぐに教えてくれたよ」


「...で。用事は私に会いに来たってことでしょ?じゃあ、顔を見たんだし、もういいよね?」





正直、今ものすごく朱理に電話して怒鳴りたい気分だから早く帰って欲しいんだけど


万が一に、こんな場面をクラスメイト...むしろクラスの女子に見られたら
明日から集団リンチどころか、学校中の女子から攻撃されるわ


「あ、うん。でも一つだけ聞いてもいい?」


「なに?」


「...今日、冬坂さんが俺の話してるの聞いた」


「え?どこで?」


まったく身に覚えがな...あ。


「今日の五時間目が終わったあと、俺が外にいたら、秋音の彼女と、冬坂さんが話してるのが聞こえて、嬉しかったんだ。俺」


「...あれは、話してたっていうか...まぁ、話はしてたんだけど」


「うん。分かってる。冬坂さんから俺の話をし始めたわけじゃないでしょ?でも、俺嬉しかったから」



なに、それ。


それを伝えるためだけに、こんなとこまで来たの?


「......あんたって、ほんと無自覚ですごい事言うよね。ほーんと王子様って感じ?まぁ、私はそんなんじゃ落ちませんけど。」


「だから何それ?王子様ってよく呼ばれるけど、俺、王子って柄じゃないよ。むしろ、ヘタレかも」


「あんたが?スポーツもそつなくこなして、勉強も難なくこなすあんたが?ありえないでしょ」


「ほんとだって。信じてよ」


「あんたみたいなイケメンの話は一切信じませーん」


「えぇ...俺は冬坂の言うことだったら何でも信じるけどなぁ」


「は?何それ。そんなことほかの女子に言ったら何されるかわかんないよ?」


私がそういうと、ニコッと笑った如月。

なんで、笑ってんの...?


「...なに?」


「いや...冬坂さんは優しいなって」


「は?今の発言のどこか優しいわけ?」


「だって、ほかの女子って事は、冬坂さんは俺になにもしないんでしょ?やっぱり、冬坂さんって優しいよ」



...はぁ!?


「...優しくないから!!優しくなんてしてないから!!!この無自覚天然ヤロー!!」




そういってくるっと背を向け、私は家に入った。





“冬坂さんって優しいよ”





初めて言われた...


優しい...なんて。

案外...いいやつ...かも?


「...違う違う!!騙されるな私!あんなの誰にだって言ってるでしょ!!あんな無自覚天然ヤローのことだもん!!」



1人で顔を横に振り、叫んでいると


「何叫んでるの?何かあったの〜♪?」


「何も!!お母さん!はやくご飯食べよ!!」


「まだ、できてないわよ」


「じゃあテレビ見てるから作って!!」


「もう〜わがままね〜」



そういいながらキッチンへ行くお母さんの後ろ姿をみてから私もリビングに行った。

お母さんが机にジュースを持ってきてくれてそれを飲みながら面白いテレビが、やってないか色々リモコンを操作していると


偶然、ドラマの1シーンが目に止まった。

最近売れている俳優がやっている連ドラ。
いつもはドラマなんて見ないけど、面白いテレビがないので見てみると



『俺は好きですよ。だって、いつも優しいじゃないですか。毒舌って言われてるけど、俺はわかってますから。』


『...そんなこと言われたの初めて......私...あなたになら...』



飲んでいるジュースを吹き出しそうになり、私はチャンネルを変えた。



「......私は絶対にあの女優みたいにはならない...あんなイケメンで天然で何もかもずるいヤツに絶対落ちない!!」


「さっきから何言ってるのよ。ほら、もうすぐで樹月も帰ってくるから、ご飯の準備の手伝いして?」


「あ、うん。」



イライラしたまま、私はお母さんと夕飯の準備をした。


...今日の夕飯はカレーのようだ。