ハルとオオカミ



「あ、ヤバ。今日当てられる日なのに予習してないわ。じゃーね、はる」


そう言って自分の席に戻っていくアキちゃんを見送ることも、返事をすることもできずに私は固まっていた。


……『手遅れ』?

って、どういうこと。


その意味を考えようとして、これ以上考えたくないと思っている自分に気づいた。


自覚しちゃダメなこと。これ以上、考えを進めたくないこと。

そんなの世の中にあるんだなあ。真理に近づいていくことは正義だと思ってたけど、それを実際に体現できるひとなんているんだろうか。


何事からも目をそらさずに進んでいける人。


そういうひとになりたいって、思うけど……。



「……大丈夫かよ、はる」



机に額をくっつけてうなだれていると、そういうことができそうなひと筆頭がうしろから声をかけてきた。


「……うん。大丈夫」

「具合悪いんなら保健室行った方がいいよ。無理すんな」

「ほんとに大丈夫……ありがとう」


のっそりと頭をあげる。次の授業の準備を始めようと、のろのろ机の中の教科書類に手を伸ばしたら、うしろからまた声をかけられた。