ハルとオオカミ



「私、先生に音楽室に来るよう言われてたから、そろそろ行くね」

「……おー。なんで笑ってんのかわからんけど、頑張れ」

「うん。ジュースありがとう。ばいばい」


私がずっとニコニコしてたからか、五十嵐くんは終始いぶかしげに眉を寄せていた。







「……で。はるはご機嫌で、ずーっとそれをニヤニヤしながら眺めてるわけだ?」


先生から面倒な雑用を頼まれて音楽室から帰ってきたけど、そんなの全く気にならないほど私は機嫌が良かった。

まだ五十嵐くんは教室に戻ってきていないので、アキちゃんにさっきのことを話してペットボトルを見せびらかしたら「よかったね」と苦笑いされた。


「えへへ。一生飲めないよ~、家宝にする」

「いやいや腐るから。気持ちはすごいわかるけど」


机の上に置いて、ニヤニヤしながらりんごジュースのペットボトルを眺める。何も知らない人が見たら頭の心配をする光景だ。


五十嵐くんはいま私の中で間違いなく『友達』だけど、やっぱり心のアイドルであることは変えられなかった。

私の”いちばん素敵”は、友達だろうが何だろうが五十嵐くんを言い表す言葉だ。


つまりこれは『友達』であり大好きな推しからのプレゼント。ただのペットボトルではない。問答無用で永久保存版の世界遺産だ。