ハルとオオカミ



「あったかいねえ」


もう少しこの癒しの空間にいたくて、彼の隣でぬくぬくとくつろぐ。すると、ふいに五十嵐くんが「あ。そうだ」と何かを思い出したように言った。


「はる、りんご好き?」

「りんご? ふつうに好きだけど……」


五十嵐くんは鞄を開けると、200ミリリットルの小さいサイズのペットボトルを取り出した。そのままぽんと投げて寄こされる。あ、りんごジュースだ。


「あげる」


えっ。びっくりして彼を見ると、もう五十嵐くんの視線は猫の方へ戻っていた。


「……もらっていいの?」

「うん。自販機でコーラ押したらなんでか出てきたから」


五十嵐くんの手元には、すでに蓋が開いているコーラがある。はじめにこのりんごジュースが出てきたから、買いなおしたんだろうな。


「それは……不運だったね」

「俺は飲まないから、はる、よかったら飲んで」

「ありがとう……」


太陽の光を含んで、五十嵐くんの赤い髪が一層透き通るように際立つ。端正な曲線美を描いた横顔にしっかり見惚れてから、もらったペットボトルに視線を移した。