ハルとオオカミ




「……もう、やめるわ」



低くて小さな声。その言葉の意味が分からなくて、手を止めて顔をあげた。


「……『やめる』、って……?」


五十嵐くんは私の顔を見ると、ふっと小さく笑って、「いや」と言った。


「気にすんな」


それだけ言って、彼はまた旗に目を戻した。


……『やめる』って、何を?

なんか、誤魔化された……のかな。


深く聞こうかと思ったけど、『気にすんな』って言われたのを掘り返すのも野暮に感じた。


……なんか、そういう空気じゃないし。


それからは、ふたりで無言で作業を続けた。


ときおりどちらからともなく話しかけたりして、時間はあっというまに過ぎていった。


真剣な顔をして筆を持つ五十嵐くんがなんだか新鮮で、写真集でも作りたくなった。もちろんカメラマンもプロデューサーもぜんぶ私で。