ハルとオオカミ



初めて話をしたあの日のように、茶色い瞳がまっすぐにこちらを見つめていた。


「……どれ?」


もしかしたら訊かれるかもな、と思ってはいた。


私が学年一位の成績だっていうのは、周知の事実だ。思ってはいたけど、ドキドキするもんは仕方ない。


自分の椅子を横向きにして、彼の机の上のプリントを覗き込む。


五十嵐くんの細くて、それでいて骨ばった指先が「これ」と問題文を指差した。ああ、爪まで綺麗だなあ。


「これはね、公式使って……」


彼に教えている間、心臓がうるさくて仕方なかった。


彼の顔が、声が、近い。


ほんとに今にも鼻血を出して死んじゃいそうな気分だった。


「なるほど……?」


説明を終えると、いまいちわかってなさそうな顔して、再び五十嵐くんがシャーペンを動かし始める。彼の手が止まるまでの間、私は黙って待っていた。