ハルとオオカミ



席が前後になっただけでこの有様だし。まあ、席は時間が経てば慣れるかもしれないけどさ……。


はあ、と二度目のため息をつきながら、教室のドアを開けた。ガララ、と音がして、誰もいない教室が視界に現れる……はずだった。



「……五十嵐くん」



私のうしろの席で、五十嵐くんはひとり席についていた。


「……あ。河名さんか」


五十嵐くんが振り返って、「よお」と軽く手を挙げてくれる。

さっきまで落ち着いていた心臓が、再び不規則に動き始めた。



「ど、どうしたの……? 五十嵐くんが教室残ってるの、珍しいね」



いつも終業と同時にさっさと帰ってるのに。


本日二回目の会話にドキドキしながら、自分の席に向かう。


見ると、彼の机の上には何やら数学のプリントが広がっていた。おお……?


「二年になって課題サボってたら、いい加減やらねーと単位やんねーぞって言われてしぶしぶ居残り中」


マジでだりい、とぼやいて欠伸をしながら、彼はシャーペンの先でプリントをとんとんとつついた。不機嫌そうにとがらせた唇がすごく可愛い。


「そうなんだ……。もしかしてそれ、全部?」


横の机の上に置かれたプリントの山を指さすと、五十嵐くんはウンザリという顔で頷いた。