『――“運営より連絡です。パン食い競走に参加する生徒は集合場所へ……”』
五十嵐くんカッコいいよね! と喜びのあまり女子たちに話しかけようとしていた意識が、運営アナウンスに引き留められた。
もし話しかけていたら、私の五十嵐くんへの気持ちが間違いなく彼女たちにバレてしまうだろうから助かった。
カメラを片付け、パン食い競走の集合場所へ向かう準備をする。
すると、テントのうしろ側の通路を歩いている三年生女子が何やら話しているのが耳に入ってきた。
あれは……同じクラスの男子がよく話題にしている美人の先輩たちだ。
「さっきの百メートルに出てた赤い髪の子、見た?」
「見た見た。あれでしょ? 去年の春、『ヤバい髪の一年が入ってきた』ってめっちゃ話題になってた子!」
「そー。ただのヤンキーかと思ってたのに、今日見たらただのイケメンでびびったんだけど」
「わかる。あたしフツ―に好きかも。この学校、あそこまで突き抜けたチャラい奴いないから新鮮だよねー。狙っちゃおうかな」
せ、先輩たちまでもが……。マジか。
先輩方のスラっとして華やかなうしろ姿を見送りながら、私は体育祭という学校行事のすごさを実感していた。



