ハルとオオカミ



……と、まあ五十嵐くんには気の毒だと思うけど、実行委員のおふざけ満載で見所いっぱいの借り物競走に推しが出てくれて正直とても嬉しい。クラスの男子たちありがとう。



そんなこんなで始まった体育祭の午前、いちばん最初の競技は私が出場する二年女子の百メートル走だった。

結果は三位。うん、可もなく不可もなく……。わかってたけどね。私、運動得意じゃないし。


それから私はクラスのテントを拠点に、外で応援しているクラスメイトやテント席で寝る五十嵐くんを撮ったり、近くでおしゃべりしている女子たちを撮ったり欠伸をする五十嵐くんを撮ったり、競技中のクラスメイトを撮ったり五十嵐くんを……という感じだった。要はほとんど五十嵐くんを撮っていた。


そしてついに最初の五十嵐くんの出番が来た。

二年男子の百メートル走である。


「ど、ドキドキする……早く出てきてくれないかな……。でもなんでか出てきてほしくない……はじまるのが怖い……」

「わかるよその気持ち。ライブが始まって実際にその姿を目にすると、ぜんぶの思考回路を奪われちゃうんだよね。そんで夢みたいにあっという間に過ぎちゃうからね。でも早く会いたいんだよね。ファンの心は混沌を極めるよね」


そわそわしながらカメラを持ってテント前に出ていると、隣で玄人の顔をしたアキちゃんがうんうんと頷いた。どうやら私の気持ちがわかってくれるらしい。さすがアキちゃんだ。