「せっ、殺生な……! ご勘弁願います! どうか! どうか後生ですから!」
「誰だよ」
五十嵐くんの呆れた声が聞こえてきたと思ったら、ぱっと手を離された。
思わず反射的に目を開けてしまうと、まっすぐに私を見つめる彼と目が合った。
……あ。しまった。
「……ふ。ほんとおもしれえなあ。はる」
五十嵐くんが、私を見つめて優しく笑う。
どきどきどき……と自分の鼓動が速まるのがわかった。
完全に固まっている私に対し、彼は穏やかな表情で私の髪のひと房を掬う。
私の髪は真っ黒で真っ直ぐで長くって、彼に比べたら遊び心の欠片もない。
なのに五十嵐くんは大事なものを扱うような手つきでそれに触れると、また私をじっと見つめた。
……あ。
「……うしろの席から見てていつも思うんだけどさあ。はる、髪キレーだよね」
射抜かれる。
私の右頬に流れる長い横髪が、五十嵐くんの手でかき上げられた。
彼の白くて綺麗な指が、私の真っ黒い髪に触れる。狼の強い瞳が、ひたすらに私を見つめている。



