畑山さんはグレーのチェスターコートを手にして私を目で立つように指示。
私は慌てて美味しい紅茶を飲みほし
同じくコートとバッグを手にして立ち上がる。
高そうな腕時計に目をやってから廊下に出て
鼻歌まじりに事務所の扉に鍵をかける畑山さん。
私はふと質問してしまう。
「探偵事務所 jって、どういう意味ですか?」
「えっ?」
そんな質問に不思議そうに首を傾げるイケメンさん。
「jってイニシャルでもないし、何か深い意味があるんでしょうか」
有名なミステリーからヒントを得たとか
尊敬している偉人のイニシャルとか
期待ワクワクで聞いたけど
「えーっとねカッコいいから」
単純な返事が返される。
「カッコいいから?」
復唱すると、笑顔でうなずく。
「そー。意味はないんだ。小文字を一文字って洒落てるでしょう。ただそれだけ。下で待ってて車回すから」
走り去る畑山さんを目で追う私に力はない。
カッコいいから……。
たしかに
今、凄い人気のあるイラストレーターさんで小文字一文字の人はいるけれど
脱力。
無事に一日が終わりますように。



