息が切れる。
それでもスニーカーだったから
まだ走りやすくてよかったよ。
細い路地裏でやっと私は男から解放され
足りない酸素を思いきり吸い
呼吸を整える。
少し落ち着いてきたかも。
そして男は……まだ落ち着かない。
壁に向かって手をついて
身体中が肩のように
ゼーゼーと息を切らし
たまに咳き込む。
弱っ!
引っ張り回しておいて
私より弱いってどーゆーこった。
それに
おまわりさんがせっかく来てくれて、堂々と助けを呼ぶ立場なのに
なんで逃げるのよ。
変なヤツ。これ以上かかわりたくない。
「あのー」
おそるおそる声をかけたら、飛び上がるくらいにビクッと動く。
「もういいですか。私、帰りますね」
帰らせてもらうよ。
だいたいボコられてる所を助けたのに『ありがとう』もないって、どーよ。
人間としてお礼は大切。
でも、いいや。
早く帰ろう。
狭い路地を抜けようとしていたら
急に男の手が動き
また私の肩をガッチリつかんだ。
「何ですか?」
「君、強いね」
ムカつく私の声と正反対に、黒いコートの男は嬉しそうな声を出した。



