ここまで言うと金青年は、口を閉ざしました。
「途中で止めては、初めから何も言わないのと同じではないですか? 安平大君が御健在だった頃のこと、進士どのが傷心なさった理由を、どうか、お聞かせいただけないでしょうか。」
 柳青年が懇請すると、金青年は雲英に
「もう長い年月が経ってしまったが、君はあの時のことを憶えているか?」
と尋ねました。
「どうして忘れることが出来ましょう。」
 雲英は温和な声できっぱりと応えました。
「まず、私からお話した方が、柳さまも分かり易いでしょう。あなたは、抜け落ちたところを補いながら書き記して下さいませ。」
 金青年が筆を手にすると、雲英はゆっくりと言葉を紡ぎ出しました。