「星野は操られているな」

篤人さんも気づいたらしい。今度は膝蹴りで足を掬った。護身術をやっていただけあって俊敏な動きがかっこいい。んもう!篤人さんてどこもかしこもかっこいい!

「星野がファイルを盗んだのも、まどかを巻き込んだのも、お前のせいか長月」

話を振られた雪乃さんは、抵抗するおっさんを黒いドロドロで縛り付けているところだった。
篤人さんの呼びかけに、にたあ、とそこだけが赤い口を引き上げて笑う。

「ふふふ…バレちゃった?」

可愛い風な物言いだけど、顔はものすごくコワイ。

「アナタが悪いのよ…ワタシと付き合ってくれないから…」

「付き合わないからなんだ?星野を操って他社に情報を流し、マスコミまで煽って会社や俺を陥れたのか?」

篤人さんが本気で怒っているのが伝わってきた。女性じゃなかったら殴りかかっていたかもしれない。
篤人さんが付き合ってくれないから?
だから星野くんに会社の大切な情報を盗ませて他所の会社に流して。
私が唆したからって言わせて、邪魔な私も会社から追い出して。
社長すらも辞めさせられそうになるくらい追い詰められて弱ったところで、大事な業務提携をちらつかせて結婚しようとしてたの?


「そんな…ひどすぎます!自分勝手です!篤人さんのことが好きならどうしてそんなことしたんですか」

篤人さんに伸ばした雪乃さんの手を掴んで押し返した。ムカついて腹が立った。
自分の思いを遂げるために、星野くんや私を利用して、会社の皆にまで迷惑かけて。
ここまで頑張って会社を引っ張ってきた篤人さんを困らせて。
それが好きな人にすること!?

「好きだから…スキだからよ…手に入れるためにはナンだってやるわ。負けたくナイ…!」

「そんなの横暴です。そんなことして誰が幸せになれるって言うんですか」

ぎりぎりと締め上げてくる雪乃さんの手と悪霊。手が痛い。喉にも絡みついてきた。
無我夢中で蹴りを繰り出して雪乃さんの足に当たる。よろけた体を押し倒しその隙に黒いドロドロをべりっと剥いで悪霊処理のゴミ袋に突っ込んだ。
私を押しのけようとする雪乃さんを左手で抑えて右手で霊を毟って、引っかかれてひっくり返されて、叩いて取って袋に入れる。
篤人さんは私に向かっていこうとする星野くんと殴り合いになり、おっさんは暴れる私たちを避けながら黒いドロドロをかき集めている。
おっさんに他にいい方法がないのか聞いたけど「ない。悪霊を片付けんことにはどうにもならん」と言うから、雪乃さんを取っ組み合いをしながら、ひたすら黒いドロドロを剥がしてゴミ袋に入れる作業を続けた。