「篤人さん…ワタシと結婚シテ…アナタがずっとスキ…ダイスキ…アイシテル」

いや、目の前にいるの私っす。
見えてない?よね?目がなんかおかしくなってるもんな!


「アナタと結婚したら…姉サン達に勝てる。ウラヤマシガッテ、クヤシガッテ…見返してやる…あのニクタラシイ女たち…ワタシをバカにして…!」


かっと見開いた目と口がさらに怖いぃぃぃぃぃ!!!
限界に怖かったので後方支援に回ることにして、篤人さんの背中側に移動。
篤人さんは私を庇うように後ろ手に抱きしめてくれた。

「篤人さんのことが好きなのは分かるとして、姉さんたちってなんだろ」
「あの家には長月の上に姉が二人いる。サニーの社長は跡取りを決めるために娘たちを競わせていた。個々の能力はもちろん、最も有能で有益な配偶者を得た娘に家督を渡すと常々言っていたらしい」

はあ、なるほど。それで雪乃さんは篤人さんに目を付けたと。

「あの家はドロドロや。家に歴史があるんはその分人の思いも強いが、いつの間にか羨望は妬みや嫉みに、願望は強欲になって澱みたいに積み重なっとる。この娘はあの家の暗い思いに絡み取られたんやな」

なにやら長月家の事情を知っているらしいおっさんが、重々しくため息を吐いた。
家を守るご先祖様として、おっさんも思うところがあるんだろう。

悪霊にとり憑かれて変わり果てた姿になってしまった雪乃さん。
黒い悪霊を取り除いてゴミに出したら、正気に戻ってあの素敵な雪乃さんに戻るんだろうか。


「邪魔…姉タチも…まどかも…ワタシを邪魔するものはユルサナイ…!」

ギッとうつろな目が私を睨んだ。
はいぃ、ご指名入りました!

「星野クン…まどかはアナタにあげるわ…」

星野くん!!! 
そういえばいたんだった…すっかり存在を忘れてたよごめん。

「まどかちゃん…」

存在を今の今まで隠していた控えめな星野くんがふらふらと立ち上がって私に向かってきた。

「星野くん?えっと、雪乃さんのいうことは聞かなくていいから」

「まどかちゃん…僕はまどかちゃんが好き…すき…スキ…」

言葉だけ聞けば熱烈に告白されているのだろうけど、棒読みで「好き」繰り返されても嬉しくなかった。
何だか言わされている感じ。操られてるというか…。
あ?雪乃さんの黒いドロドロがの一部が星野くんにつながってるけどあれ何。
ドロドロの糸は星野くんの頭や手足に細く伸びて、糸が動けば星野くんも動いているように見える。

「まどかちゃんは…僕と付き合う。社長から引き離す…まどかちゃんは邪魔…」

邪魔って言いましたよこの人。好きな人に普通そんなこと言う?いま普通じゃないけどさ!

「まどか!」

両手を上げてゾンビのように襲い掛かってきた星野くんを、篤人さんが殴る。左頬にクリーンヒット。
後ろにどんっと倒れて結構なダメージだっただろうに、すぐにむくりと起き上がってまたこっちに来る。
やっぱり黒い糸が星野くんの体を引っ張っていた。