土曜日のお昼はどこも人でいっぱいだったけど、そんなに真っ黒な靄を纏っている人もいなくて快適。
並ぶなんて久しぶりという社長と二人で20分ほど待ってアジアンダイニングで食事して、インテリやショップやセレクトショップを見て回った。
社長…篤人さんは自宅の下にこんなにお店があるなんて知らなかった、なんて言うからびっくりした。


「仕事が忙しいっていうのもあるんだけど、人込みに出ると何かしらトラブルの種を拾ってくるから、ここ数年はあまり出歩かないようにしてたんだ」

「トラブルの種?」

「普通に食事や買い物をしているだけなんだけどね。話したこともない女に目を付けられて、付きまとわれるとか」


負の女ホイホイか。
落ち着いて買い物も食事もできないじゃん。
まあこの見た目ですしね、ただでさえ目を引いちゃうんだろうけど。
そういえば、こいつは女運が悪いって、おっさんも言ってたな。


「でも、まどかと居ればそんなこともないな。ありがとう」


確かに、今日は手をつないでいるせいもあってか靄っぽいものが近づいてきても、霧散するか私たちを避けるように動くのが視えた。
理屈は分からないけど、私がシールド的役割を果たしているのかもしれない。
おっさんが傍にいない社長には視えていないはずだけど、何か感じるものがあるんだろう。


その日は結局、晩御飯まで一緒に食べて。いい加減に帰ろうとしたら、「このまま、うちに住んだらいいよ」と冗談か本気か分からない提案をされた。もちろん丁重にお断りしたけど。
帰る時もかなりごねられて、自宅まで送ってくれたけど、なかなか車から降ろしてくれなかった。

社長は私がいると便利だからそんなことを言うんだろうけど、こっちは好きにならないように必死なのに。
水際なんですけど分かってます?優しいのも帰るのかって拗ねるのも勘違いさせるって思わないんですか?


好きって気持ちは好きになればなるほど、嫉妬や独占欲がついてくる。

私がもし、社長を好きになったら。
人間だし、私は弱いし流されやすいし、綺麗な気持ちだけではいられない。
醜い感情に引きずられて負の感情を持つようになれば、それは社長を裏切ることになる。

それだけは、絶対にしたくない。しない。
だから、好きにはならない。


来週からちゃんとしよう。、私は固い決意をしたのだった。