「夏目さん、これ森川に持っていってくれる?」


秘書室の廊下側に座る私に、封筒を手にした社長がさり気なく声をかけてくる。
肩にはおっさん。
みんなには、これ視えないんだよなあ。不思議。


「はい。副社長ですね」


廊下側の席にに座る私は返事しながら、目線は社長の体の周り。
うっすら黒い靄が取巻いているのが視えた。

あー はい。これはあっちのお仕事ですね。


浄化をして欲しい時、社長は他の用事を頼む振りをして私に声をかける。
封筒を受け取りながら、そっと手に触れ、吸いますね、と目で合図。

「うん。よろしく」

まるでオフィスで秘密の逢瀬してるみたいに重ねる手と手がね、不必要にドキドキするわけですよ。
別に深い意味はないんだけどさ!社長の周りを掃除してるだけだし!

黒い負の気を吸い込むと、階段を上った後のような軽い疲労感が足にきた。今日のは薄いから楽勝。
これがちょっと濃いやつだと、「ケーキでも買っておいで」とおまけがもらえる。もちろん不自然じゃないように秘書課の人(とおっさん)の分も。
しかも、栄養補給の意味で週に1度はご馳走もしてくれるという好待遇。
社長で美形と食事とか普通のわたしなら緊張して無理だけど、毎日のように顔を合わせて手を触る関係(なんかセクハラみたい)だから少し免疫もできてきたし、社長は話題が豊富で一緒にいると楽しい。
それにおっさんもいるから二人っきりになることもないしね。
おっさんは社長と違って甘党だから、スイーツ談義と購入のためにおっさんに付き合うことも多いのだ。

花京院社長と私のヒミツの関係は、なかなか順調だと思う。