その金色の目をした黒猫は、口を開いたかと思うと。
「お前、かわいそうな人間だな。」
喋った、ように聞こえた。
猫が?ありえない。
自分の耳を疑っている間にも、黒猫は毛づくろいをしながら気のない風に言う。
「そんなに周りと一緒がいいかねえ。人間は面倒な生き物だ。猫みたいに気ままに生きりゃあいいのに。
まあ、お前がどうなろうと、私にはどうでもいいことだがな。」
…どうでもいい。
猫が人の言葉を話していることは忘れて、耳に残った。
金色の目が私を捉える。ショックだった。
でもそれと同時に、少しすっきりした。
数秒見つめ合った後、黒猫はふっと目をそらし、ニャア、と鳴き、軽快に去っていった。
ああ、雨はやんでいたのか。
周囲の人が傘を閉じても、私は閉じなかった。このまま歩いて家に帰ろう。
シャッターの閉まった商店街が少しだけ、好きになれた気がする。