どの記憶にも、残っているのは美晴の笑顔だった。
だから、夏休み前から不意に見せる憂いだ表情が、ずっと気にかかっていた。
「なあ、美晴、」
「なに?」
「…夏祭り、行くぞ。」
もし悩む理由があるなら、話してほしくて。
俺があんたを信頼してるみたいに、俺のことも信頼してほしくて。
俺は初めて自分から遊びに誘った。
美晴は俺をぽかんと見つめ、それからようやく声を発した。
「か、風見君、熱あるんじゃない...?」
…人がせっかくなけなしのプライド削ったってのに。
「あー、あるかもやっぱやめにしよう。」
「じ、冗談だよー!…行く。」
美晴は少し目を伏せて、かみしめるように言った。
普段は馬鹿みたいに大口開けて笑ってるくせに、こういう時は女の子になる。
ほんと、ずるいと思う。
「...ん。」
それと同時に、安心してしまっていた。
彼女がこのとき何を考えていたか、俺は知る由もなかった。