黒猫の香音(前編)

閑散とした何処にでもよくある様な2LDKのアパートで二人の若い夫婦はまだ哀しみから抜け出せないでいた。


「…御免、陽っ…私の所為で…私があの時陽から離れたから……」

馨は自分に対しての苛立ちと陽を失った喪失感に只々涙する。


「いつまでも泣いていたって仕方ないだろ、事情はどうであれ、変わらないモノは変わらないんだ…!」


そう言う航聖も息子が見つけ出す事が出来なかった悔しさで硬く目を瞑る。



あの時こうしていれば_




そう思い返せば思い返す程楽しそうに笑っていた陽が頭に浮かんでは消え、涙が止まらない。


「…陽ぃ………!」