黒猫の香音(前編)

「竹内馨です、顔だけは何回か見た事あります。」

「まぁ、ちゃんとした自己紹介なんてしないからな、ここ。」


そう言って水谷はカキンッと良い音を立ててよく目にする煙草にzippoで火を付けた。


「その煙草…」

「ん?あぁ、御前のと一緒だな。」


その煙草は馨の愛煙している銘柄『マールボロ』と全く同じである。


「度数も一緒じゃないですか。」

「御前、何処まで真似すんだよ!」

「いや、コッチの台詞ですよ!!」


他愛ないやりとりだが二人は楽しそうにフザケ合う。


「てか、そろそろ戻らねぇと御前ん所の主任、うるさいんじゃねーか?」


「あ…ヤベ!」



我に返り、馨は急いで仕事に戻ろうとする。