「もぅ! カルバドスやめてよ!」

「や・め・ま・せーん!」

 内乱に次ぐ内乱、動乱極まるヴォークリンデ王国。清流を注ぎ自然に溢れたこの国のとある山中、その奥に地図にさえ乗らない里があった。そこは乱世により支配者が次々と変わり制度や定まらない政に辟易した者たちが集まってできた集落だ。

 そこに幼いルーテシアは、“爺じ”と彼女が呼ぶ老人と共に暮らしていた。そんな彼女が四六時中共に遊ぶ……、否、嫌々時間を過ごしてきたのがカルバドスという少年だ。やせぎすで目つきが悪く燃えるような赤い髪を持った肌が浅黒い少年。

 自我が芽生え、初めて会った時には、既に里の住人からはいたずら小僧として認識されていた彼は、その里の長である頭領の二人いる子供のうちの一人、長男だった。

 そんな彼はニヤッと歯を見せ、灰色の瞳を爛々と輝かせて嫌がるルーテシアに口を開いた。