山賊の村を捨て、大好きなジイジや村の者たちを亡くして早2年が経った。

「兄さん、お姉ちゃん。落ち着けないの?」
「「これが落ち着いていられるか! / れるわけがないでしょ!?」」

 息ピッタリの回答を受けて、ライナは目に見えて苦い笑顔を見せていた。

 あの決死の逃亡からの2年間、彼らがどうだったのかは多くは言わない。言えるとするなら、ルーテシアがいるからシュットハルト兄弟は、心を折られず気持ちを奮い立たせ。その兄弟がいたから、絶望に飲み込まれたルーテシアが悲しみを飲み込み、何とか立ち直ることが出来た程度の悲惨さだ。

「さて、何人が生き残ってるか……あぁぁぁぁぁぁもうっ! まどろっこしいったらねぇっ!」 

 そわそわしっぱなしが耐えられないのか、上半身を大きく後ろにそらせ、両手で己の頭をガシガシ掻きむしる。

「五月蠅いっ! カルバドス!」
「とは言ってもだなぁルーテシア!」

 同じように今か今かと待ちわびるルーテシアだから、そんなカルバドスの素振りに苛立ってしょうがない。
 「やれやれ……」とばかりに首を振ってため息をついたライナは、だが今度は満足げに深く頷いた。

「良かった。これなら皆に、今までの兄さんとお姉ちゃん二人に再会してもらえそうだ」

 気持ちが逸るのは仕方ないこと。
 あの悲惨な事件があってから2年。カルバドスとライナの決定により、ついてきた者たちそれぞれ、また集う日までそれぞれの人生を生きることとなり散って行ったのだ。
 苦渋の決断には違いない。つまりそれは、山賊としてこれまで生き、そして生き延びた末の決断が、山賊組織の解散。つまり廃業だったからだ。

「だ、大丈夫よね皆」
「あ、当たり前だろうが。山賊廃業したからって路頭に迷うような雑魚なんざ一人もいねぇさ。誰の子分だったと思ってやがる」
「貴方の子分だから心配しているってのが分かっていないわけ?」
「んだとぉ!」

 もちろんあんなことがあったことで、更に生き様と生き方を全否定する結果となった決断。そして確かに砕け散ったルーテシアとカルバドスの関係性。
 2年たった今、それもやっと修復し始めてきたと感じていたライナだったが、修復したら修復したで、昔と変わらないじゃれ合いに、複雑な気持ちは少なからずあった。

「ハッ! ハッハッ! 変わらねぇ! 変わって……やがらねぇな!」
「ねぇ皆! 3人がいたよ! 生きていた!」
「なんつーの? ますます頭領に似てきやがったな」
「ちょ! お前ら走んじゃねぇよ! こちとら子供連れてんだからよぉ!」

 その時だ、聞きなじみのある懐かしくそして明るい声。
 待ち望んでやっと至った再会の日。ライナだってとても嬉しくて、だから久しぶりに彼らに見せるなら満面の笑顔と決めていた……のに。

「お、お……お前らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「皆ぁ!!」

 唖然。いや呆然か。その表現が正しい。
 声を耳に、表情を認め、久方ぶりの仲間たちに顔を向けたライナの目に入ってきたのは、
 興奮から抱きしめようとせん、思わず駆け出した兄と、やっぱり同じように走っていくルーテシアの背中。


「まぁ、いいのかこれで。いいんだよね。兄さん」
 
 互いの生存に喜ぶ皆の姿をしばし見つめていたライナは、しかし呆れたように笑ったかと思うと、ゆっくりと、皆の方へと一歩踏み出した。