「悪いなジジイ。最後あんな事したくなかったろう?」

「小僧が、いっぱしにワシを心配するんじゃないわ」

 気を失ったルーテシアをベルドラインから預かりその腕に抱くカルバドスが声を上げればベルドラインは豪快に笑った、豪快に笑ってその瞳から零れる光をぬぐって見せた。

 言葉を失い、カルバドスは俯く。だが地を睨むその視界に父である頭領の斧頭を見つけ頭を上げた。

「アイツら、弱そうでな。だからハンデをやる事にした。お前の得物を寄こせ。その代わりに俺の得物を交換してやる……強くなったな」

 その一言に目を剥いたカルバドス。

 父の言葉の通りに互いの戦斧を交換して……一つ深く頭を下げる。

「父上、ベルトライン殿、ご存分に。……行くぞテメェラ!」

 下げた頭を戻す事も無く、一喝。そして……疾しり始めた。流石は山賊、険しい坂道も一蹴り二蹴りでどんどん駆け昇って行く。

 山賊若頭とその子分、少しずつ茂みによって見えなくなっていく彼らの背中を見て残されたベルドラインと頭領は嗤った。

「アイツ、最後泣いてやがった」

「だがいい統率だ。お嬢様を抱える小僧を子分達が取り巻く」

 感じ入るようにしみじみと話す二人の姿を見れば、まるでここが戦いの渦中に無いかのようで。
 しかしてその空気はすぐに霧散した。

「ワリィな! 大将! ここまでは連れてこれた……んだが」

 突如顔を見せたのは頭領の子分。すなわち山賊で、シュットハルト将軍の部下だった男。
 そこまで言って彼は倒れた。力尽きた。その後ろに無傷で立つ頭領の妻を伴って……。