「ちょっと待って、ジイジ、頭領。分からない。分からないよ。なんの話をしているの? 山賊がどうって、将軍がどうって頭領がどうって、貴族家? 私を守る? だめ、話が分からな……」

「ルーテシア・フォン・レオネール。レオネールは御家の名、フォンは王位継承権のある女性を示すもの。それがあなたの本当の名。貴方は……国を導き道標たる王家の血筋を惹かれた由緒正しき家の正統後継者なのですよ」

「わ、たしが……王家、嘘……」

 たちの悪い冗談、そう思うしかない。自分は王家の血筋を引く者、そしてずっと自らに素性を隠していた山賊達は、自分を守るために人を襲い、かといって攻め滅ぼされないように役人に媚びを売るという危ない橋を渡ったという事だ。

「だが、今回ばかりは違った。跡目争いでほとんどが死んだはずの中、山賊の一味に生き残りがいることがばれちまった。お前がな」

「私が、生きていることが……分かってしまったから……」

 であればどういうことか? 話している自分たちの脇で、必死に敵と戦い、絶痛に悲鳴をあげ、状況不利に顔を歪めて倒れていく彼らは、自分の為に守り、倒れ、そして死んでいったというのか。

 思考は停止する。飲み込めない状況、だが今のこの悲劇はすべて自分のせいで起きたことが分かってしまった彼女は、ただただ何も言えずに絶望に暮れていた。