「城内の巡回中かぁ」

 ルーテシアが漏らしたのはさきほどのヴィクセンが伝えた報告。

「いっつも居ないのよねぇ。御飯、いつ食べているの? ちゃんと休みは取れているの?」

 そこまで言って言葉を詰まらせる。ソレを考える事が無駄であることをよくわかっていたからだ。

「あのバカ」

 ルーテシアは少し強めな口調でそう言い放つと明るい雰囲気に沸き立つ窓の外に目をやった。

「バカは私か。言うだけ言って……ただの理想論だって分かっているのに。足りない脳みそ絞ってまで私を助けようとしてくれんでしょ? 私と、あの人の障害とならないように」

 その言葉と共に湧き上がる感情をルーテシアは必死に抑え込む。なんとか、とてつもない時間をかけて施してもらった化粧を崩すわけにはいかなかった。

 そうして一つ大きくため息をついた彼女は、徐に口を開いた。

「あいつ。今何をしているのかな?」

 そうして彼女は昔の事を思い出した。子供のころから大人になるまで常にともに歩んできた、今は姿を消してしまった一人の、山賊上がりの近衛兵の事を。