「男は装備の手入れを徹底しろ。いつ戦闘が始まっても対応できるようにしておくんだ!」

「かさばる物は置いてって! 保存の効く物、家畜の移動を最優先に!」

 場所は変わり、里の中心部では里の者が忙しなく物資を運ぶ中、大声を張り上げ続けるカルバドスとライナ。

「兄さん、ごめん。やっぱりあの時……」

「バーカ。お前の言う事は一理あった。それにあの時、大将は俺。お前が逃がしたとして、仲間使うか弓で狙うか殺り様はいくらでもあったんだ。結局決めたのは、俺だよ」

「でも……」

 ライナはその先は言えなかった。仲の良い兄、自信を以て里の若頭として、若者のガキ大将として引っ張るカルバドスに尊敬の念さえ覚えるライナ、しかしその強き兄が更に強い父親、この里の頭領からの幾度にも及ぶ拳骨でこさえてしまった腫れあがった顔を見て俯いた。

 男を逃がした事、それが、今この里を総挙げて拠点を移させる事に繋がっている。