この光景は見た事があった。あのいつも見る悪夢と同じだ。

 暗がりが明るくなって、目にした物すべてにルーテシアはショックを受けてしまったのだった。

 例えば彼女の服、先ほどカルバドスの手のひらに抱かれた肩はもう少し乾いてしまったのか、既に変色してしまった、里外の男達の血で彩られた幼馴染の手のひらの跡が残り、そんな幼馴染に目を向ければ、相手の返り血を全身に浴びながらも優しそうな顔で微笑む。

“行きましょうぞ! ルーテシア様、貴女は私が守る故”

“ルーテシアはこの俺が守ってやっから”

そして、重なるあの夢と同じセリフ。

 これまで苛まれてきた身に覚えのない悪夢、そしてこれから苛まれるであろう悪夢、追いつかない理解、とめどなく変わって行く状況、恐ろしい力を振るう幼馴染と見たことないほどに冷たい言葉を発したその弟。

 何かが一度に崩れていく恐怖、これからのしかかってくるであろう不安を感じたルーテシア。

「イヤァァァァァァァァ!!」

 そうして、幼馴染の手さえ拒絶した彼女は、とうとう自らの意識を放棄させた。