ルーテシアは息が止まってしまった。

 一人の松明は仲間の松明へ次々炎を移していく。少しずつ明るくなっていく周囲。

 黒や紺で冷たかった夜の光景に色を差した。倒れた遺体や、自らに触れる……朱に濡れたカルバドスをも。

「心配掛けさせやがって。山に入るなとは言わねぇ。けどその時は一声掛けろ。ルーテシアはこの俺が守ってやっから」

「あ! 若、それは怪しいんじゃねぇの?」

「お姉ちゃん、兄さんはやめた方がいいよ」

「 若はオオカミ。若はバカ!」

「オイ! 怪しいって何だ! 今バカって言ったの誰だ! しかもライナお前もか!」

 色づいた光景に顔をサッと青くさせるルーテシア、目の前の楽しそうに笑っている彼らとは誰から見ても分かるほどの温度差があった。

「おい大丈夫か? まぁ初めてだし、見てて気分のいいものじゃないだろう。帰ろうぜ。歩けるか?」

そうして、肩を抱いていたカルバドスが、ルーテシアの手を取ろうとしたときだった。

「触らないで!」

「ルーテシア……?」

 彼女は後ずさり、強く拒絶した。その手は、昔から隣で笑っていた、幼馴染の物だと言うのに。