「違う! 殺したくないの!」

 そうして見てはいられなかったのだ、それこそ口に出すことさえためらわれる所業を、自らが何でも知っているはずだった昔から常に隣で笑っていた幼馴染が表情一つ変えずに行ってしまうところを。

「もう、いいでしょ!? 私は無事。無事だから! もう嫌だ! 見たくない! 見せないで!」

 何が、どうしてそれをカルバドスに懇願するのか、そんな理由をもはや彼女が頭に浮かべ言葉へと形付かせるには余裕はなかった。

 彼は……誰だ? カルバドス、なんだろうか? そう言うほどに、今のルーテシアの言葉を聞いている暗くなった森に二つ浮かぶ灰色の瞳が浮かべた光は、その場にいる全ての物たちを威圧した。

「カルバドスッ! 」

「それは出来ねぇ。この商売はイメージが大事だ。混戦からの逃亡者、生還者なら命からがらって事もあるだろうが、今回コイツを逃せばウチが甘いって話が広まっちまう。生きて返す手はなぁ無いんだよ……」

 終らないであろう、妥協点の無いであろう会話の平行線、カルバドスはそれを感じたのだろう。表情は変えずにもう一度大きく戦斧を振り上げる。

「やめて!」

 だが、ルーテシアの叫びむなしく、力を込めて振り下ろされた戦斧。自らが死ぬことに恐怖する男の絶叫があたりに響き……そしてそれと同時に聞こえたのは同じく鉄製の何かと衝突した音だった。