「イヤだ! 頼む! もう消える、消えるから命だけは助けてくれ‼」

「……お前、あの女が命乞いした時、助けてやろうなんて思ったのか?」

 これから訪れる死の恐怖に顔をゆがめる最後の生き残り、そして、彼の言葉にカルバドスがルーテシアを引き合いに出したことで、彼女もついに目の前で起きたショッキングな光景から醒めた。

 醒めたといっても受けた衝撃が消えることなどあり得ない。現に今、男と、カルバドスと友人たちと、そしてルーテシアの周りには14体の遺体が横たわっているのだから。

 ほんの10分もたっていない出来事だった。

“ライナと一緒に、木の実とってきたんだ。その、この前の事があったから”

 そんな時だった。かつて、自分と喧嘩をした際に、幼いながらも必死で考え、謝ろうとした時の幼い頃のカルバドスの顔が思い浮かばれた。

“約束! 約束な!”

 自分に許してもらってカルバドスが浮かべた嬉しそうな笑顔。

“ガッハハ、ちげぇねぇ! んじゃあな”

 元服した後だって、その子供じみた笑顔は失うことがなかった……のに、

 それが……

「あの世で達者でな」

 この光景は……

「ヤァァメェェロォォォォォォ!!!!!」

 なんだ!!

「カルバドスッ!」

 ルーテシアの一声。

 カルバドスが振り下ろした戦斧の斧頭は、ちょうど、男の頭のすぐ上で止められていた。