幾山を越えていったのはカルバドスの咆哮だけではなかった。その後辺りを轟かせ、その音に込められる怨嗟が近隣の野生動物達さえ反応させる。其れは、男達の絶痛による悲鳴。

 一人、また一人とカルバドスに斬り掛り大よそ2合と持たずに斬られ、倒れていく。倒されながらもコト切れず想像を絶す痛みに大声で涙を流す男だっている中、気にも留めずにしっかり2本足で立ち武器を構える者の方へと歩んでいった。

「ば、化け物ぉぉぉ! うわぁぁぁぁ!」

 敵が冷静な判断を下せず上段、大振りでその剣を振り上げるのであれば、カルバドスはがら空きの胴を薙ぎ、振り下ろすことを許さない。

 1合、2合と何とか武器を交えることができた男がいたとしても、思いっきり遠心力が乗った戦斧の一撃に、剣が弾かれ、体が流れて生まれてしまったスキを、その戦斧が見逃すはずもなく……

「虫の息は任せる」

「任された」

 時折、カルバドスがつぶやく言葉があるとすれば、それは命を奪う指示でしかなかった。

「お前が最後だな」

「ッヒ‼」

 徐にカルバドスが口を開いた。ついにその時はやってきてしまったのだ。15人いた男たちの最後の生き残り。それは、言い換えれば14人を、ルーテシアの幼馴染が皆殺しに下にも等しい。