「グフゥゥゥ……」

 一瞬でも死を覚悟したルーテシア。だが次に彼女が聞こえたのは、自分に剣を振り下ろそうとした男の苦しむ声、男が地面に崩れ落ちた音だった。そしてその男の胸から生えているのは……誰かの……矢?

「さっすが若‼ あの距離で当てるかよ!」

 あまりの恐ろしさに頭を抱えうずくまるルーテシア。そんな彼女がその矢を確認した途端聞こえたのは、自分が良く知っている昔なじみの友人の声だった。そして、その声が今確かに“若”と呼んだのを耳にしたルーテシアは思わず顔をあげてしまった。

「カルバド……‼」

 もう死ぬものだとすら思っていた彼女、だがルーテシアの幼馴染達によって救われた彼女は嬉しさのあまり、まずカルバドスを探した。一番身近な存在を目にして、安心したかったのだった。

「第2射隊……構え、狙え……」

 しかし、それまでだった。ルーテシアは言葉を失ってしまった。

「放て……殺せ……」

 彼女の視線の先にいる男、よく知っている男には違いなかった。だというのにだ、だというのに……彼女の目に映る青年の出で立ちは、まるでこれまで一度も会った事のないような未視感を彼女に与えた。

 それは、あるいは恐怖と言って違和感がないかのような……