ワァッ! と上がった歓声。

 意気揚々と皆に喚き散らす父親の声を一身に受けながら、先ほどの頭突きで鼻が折れてしまったのか、口で荒々しく呼吸をするカルバドス。

 鼻から喉に掛けてツツーッと流れる液体の鉄の匂いを感じながら、それをまき散らさないようにとカルバドスは天を仰いだ。

―生きてる……

 こんな血なまぐさい事があったにも関わらず。その空は青々としていた。太陽はまぶしく、何とかそれを防ごうと手をかざせば、自らの手はあの男によって朱に濡れている事を知る。

―でも、殺した……

 自分がしてしまった事。こればかりはこの先一時たりとも忘れることはできないだろう。そうして、その感覚は、この儀式が始まるまでの自分をまるっきり変えてしまったことにも気づいていた。

―終わったら、すぐにルーテシアの所に遊びに行くつもりだったんだけどな……

「こんな手じゃあ、もうアイツの手を握る事なんてできやしねぇなぁ」

 寂しそうに、淡々とつぶやくカルバドス。そうして、彼は今自分がしてしまった事に整理すらつけられないまま……父である頭領、母親、ライナ。そして濁流のように押し寄せる里の者達から激励と、愛のある抱擁に飲み込まれた。