―大人に、なってしまう。

 ルーテシアが思う大人になる。というのは言葉通りの意味だった。成人ではない“大人”だ。

 この里で生きてきて、これまで何度も元服の誕生日を迎えた年上達を見てきたルーテシア。だが、男女でその雰囲気には大きな開きがあった。

 女性は、年上から本格的な化粧を施される。そこに大人になった実感を身に沁み渡らせ、明るく喜ぶものだとすれば、男性はどことなく影を帯びるというか。大人らしく真面目になる。其れも少しずつ、というわけではなくそれまで子供らしかった人間でも、誕生日から1か月前、元服を迎えるときには急激に大人になっていくのだった。

 大人になってしまうと変わることだって多かった。自由を許されたことで里の外に生きる道を見出し、突然前触れもなく姿を消してしまう者、何かに取り憑かれたように女を娶り、子を成そうとするもの。そしてその時彼らが選ぶのは少し年上の者達ばかり。これまで付き合ってきた同世代、年下の友達とは少しずつ疎遠になっていく。

 もう一つ気持ちの悪い事。其れは成人になる男性は、自らが、そしてその男の周囲が決めた人間とその期間から元服するまで話すことはおろか会う事さえ禁じられていた風習がある事だった。