「おう、お前らは安心しろ。親ん所へ突き飛ばす。あぁ、逃げんじゃねぇ!? 逃げたらお前ら全員ブッコ……!!」

 おおよそ大人が子供に掛けてはいけない言葉。だが怒り狂い拳を振りかざす頭領のあまりの恐ろしさにルーテシアも思考が止まってよく聞こえない。

「で、ルーテシア」

「ヒャ、ヒャイ!」

 そんな中で自分の名が呼ばれた。ギラギラとした灰色の瞳には炎が宿り、腕や顔中にたくさんの古傷がある事も相まってまるで心臓が握られているようでとにかく恐ろしかった。

「お前がやってないのは分かっている。いつも仲よくしてくれているのに、この馬鹿がゴメンな。ベルトライン殿にも宜しく伝えといてくれ」

 だが、頭領はそういうと笑顔を見せた。笑顔だというのに溢れ出る覇気には、ルーテシアも口角をヒクつかせざるを得ない。

「仲良くしてやっているのは俺の方だ!」

「そんの減らず口、たっぷり泣き言に変えてやるから覚悟しやがれコラ!」

 そうして、結局頭領が現れてからは全く反応もできなかったルーテシアは、息子を担ぎ、いたずら仲間たちを連れてノッシノッシと離れていく彼らを黙って見送るしかなかった。