元カレバンドDX

「大丈夫だよ、陽愛ちゃん！オレが好きで愛してるのは陽愛ちゃんだけだから！」

　風太の言葉は、今は胸に響かない。

「陽愛ちゃん？」

「うん、わかった。信じてるから大丈夫だよ。今日はもう疲れてるでしょ？また明日ね。おやすみなさい」

　機械的にそう言って、一方的に電話を切って、あたしは涙で濡れた手の甲を、さらに涙で濡らした。

　そして、疑問符の言葉だけを頭と心に反すうさせる。

　元カノとはなんで別れたんだろう？

　別れたのに同じバンドを続けてるの？

　風ちゃんはよくても、元カノさんはまだ未練があるんじゃないの？

　あんなに可愛いお人形さんみたいな子と、絶対によりを戻すことはないって誓えるの……？

　あたしは布団の中にもぐり込んで、さらに泣き続けた。

　楽しいライブの日だったはずなのに、こんなに苦しくなるなんて、神様はいじわるだ。

　あたしは「はーっ」と大きく息を吐き出して、思考から解放されるように眠りについた。

　けれど、モヤモヤとした何かは、あたしから離れてはくれなかった。